今日の言の葉

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10/31  またまた単位の国字だが、「瓦(グラム)」がらみを見てみたい。

        文字  読 み      意 味
       「瓧」 デカグラム          10グラム
       「瓸」 ヘクトグラム        100グラム
       「瓩」 キログラム        1000グラム
       「瓰」 デシグラム       10分の1グラム
       「甅」 センチグラム     100分の1グラム
       「瓱」 ミリグラム     1000分の1グラム

       面白かったが、少々飽きてきた。もういい。ただ、工夫というものに
      果てがないと思ったのは、次の文字だ。

       「瓲」 トン         1000キログラム

       いったい、いつの時代にこんな文字群を作ったのだろうか。外国のこ
      とを強く意識していることは分かる。
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10/30  昨日のが面白いので、「メートル」を見ると、「米」にその意味が確
      認できた。日本人のことだ、「リットル」と同じことをしているに違い
      ないと思ったが、いや、思った通りだった。

        文字  読 み      意 味
       「籵」 デカメートル        10メートル
       「粨」 ヘクトメートル      100メートル
       「粁」 キロメートル      1000メートル
       「粉」 デシメートル     10分の1メートル
       「糎」 センチメートル   100分の1メートル
       「粍」 ミリメートル   1000分の1メートル

       ものすごく分かりやすかったが、「デシメートル」が気になった。こ
      れは「こな」だろう、「こな」。
       まあ、そもそもメートルを表す文字が「米」なので、こういう現象は
      笑って済ますべきだろう。許す。
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10/29  「立偏」について見ているうちに、変なものを発見した。

        文字  読 み      意 味
       「竍」 デカリットル        10リットル
       「竡」 ヘクトリットル      100リットル
       「竏」 キロリットル      1000リットル
       「竕」 デシリットル     10分の1リットル
       「竰」 センチリットル   100分の1リットル
       「竓」 ミリリットル   1000分の1リットル

       こんなことになっているのはなぜかと、おおもとの「立」の項を見る
      と、「リットル」の意味が与えられていた。ただしこれは日本人が決め
      たことらしい。だから、ここに並んだおかしな文字は、すべて国字であ
      る。日本人が考えた新しい文字だ。
       「立」の右側の「十・百・千」は、何倍するかを表すことがよく分か
      る。「分・厘・毛」も、これは何分の一かを示すものだ。
       面白いのは、この字の読みだが、辞書には「訓読み」と書かれている。
      訓読みなのにカタカナで書く。これでいいのか。いいのだ。
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10/28  「並」の旧字体は人間的だ。「竝」と書く。「立」が二つ。そもそも
      「立」の字は、人が大地に両足で踏ん張ったように立つ姿を表したもの
      だ。だから、「竝」は、人が二人、並んで立っている様子を表している。
        どうしてこんな心温まる文字が、意味の分からない文字に取り替えら
      れてしまったのか、と不思議に思う。小さい子にも覚えてもらえる字だ
      と思うのだがなあ。
       いろいろな理由があってのことなのだろうが、何とかならなかったも
      のか。ボクは新字体の世代だが、こんなことを思ってしまう。
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10/27  「六書」とは、漢字の成り立ちを説明する六種の分類法だ。象形・指
      事・会意・形声・転注・仮借と分類されている。読み方は「りくしょ」
      だ。覚えておくと良い。
       漢和辞典を見ていたら、「女」が象形に分類されていた。「ひざまず
      いて、手を組み合わせた女性の姿をかたどる」と説明があるので、昔の
      中国の社会がほの見えて感心した。「女は礼儀正しくしているものだ」
      と、そんな女子教育があったように思えたのだ。
       さらに、「母」の字を見ると、これも象形に分類されていた。「女に
      乳房を示す点を加えて、『はは』の意を表す」とのこと。なるほど、あ
      の点はそういう意味を持っていたのか。今では縦に並んでしまったが、
      もともとは横に並べて書かれていたものらしい。
       逆に言えば、母の字から点を取り去ったものが「女」だと言えないだ
      ろうか。「女」の二画目が上に突きだした形は誤りだとする説があるが、
      こういうことを考えると、馬鹿馬鹿しくなる。筆順から考えても、上に
      突きだしてしまうのは、「許容」だとかそんなものではなく、自然なこ
      となのだ。「許容」というのは、「間違っているけど許してあげる」と
      いうことだ。
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10/26  「探検」か「探険」か。
       子どものころは、ジャングル生活にあこがれていた。アマゾンで大蛇
      と闘いながら生活し、ターザンロープにつかまって飛び回っていたかっ
      た。だから、そんなのは迷いなく「探険」だった。
       しかし、いつの日か「探検」が心の中に入ってきた。そもそも、「危
      険」なことをするから「冒険」なのだ。危ないことは「冒険」に任せて
      おいて、まじめに調べものをするのは「探検」と書くのがいい。「探検」
      とは、「探査」して「検査」することなのだ。こう自分に言い聞かせて
      二つの言葉を区別したものだ。このころのボクが、アマゾンにあこがれ
      るのではなく、まじめモードにあったことは言うまでもない。「探検」
      は、いわば、知識の海を進んでいくようなものだった。
       しかるに、最近、世の中では、どちらも普通に使うようだと気がつい
      た。辞書を引くとこんな結果。

      たんけん【探検/探険】 (名)スル
       未知の地域に入り踏査すること。
      「アマゾンを―する」「―隊」「―家(か)」 (大辞林)

       あほらしいことに、見出し語まで二つ同居。どちらでもいいのか。区
      別して使っていたのに、どういうことだ。
       がっかりしたが、用例に「アマゾンを―する」と書かれていて、この
      辞書を作った人が子どものころにアマゾンにあこがれていたのではない
      かと、そんな気がして妙にうれしくなった。
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10/25  親戚に「寿」の字が入った人がいる。子どものころ、書き方を間違え
      て叱られた。子どもだから仕方ないのに。ただ、最後の「寸」が左に突
      き抜けていなかっただけなのだが。いやしかし、先に書かれた左はらい
      を後から書いた「寸」が横切っているのが不自然だ。子供心にも容認で
      きない文字だった。
       部品同士は侵略しあわない、というのが暗黙の了解だと思う。みんな
      その位置をわきまえて、狭い土地を分けあっているじゃないか。「寿」
      君には反省してほしい。
       君は以前、「壽」という形だったが、あの頃は実にきちんとしていた。
      ただ、ややこしくてなかなか覚えてもらえないという点が残念だった。
      高校のころのボクは、君のようなごちゃごちゃした文字を覚えるのが快
      感だった。
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10/24  「臼」の下に脚をつけると「兒」になる。これは子どもの頭の骨が互
      いにくっつきあっていない状態を示している。「児」の形では、継ぎ目
      のあることが分からないではないか。そしてさらに、「兒」が成長する
      と、その継ぎ目が分からなくなって、「兄」になる。
       さらに成長すると、兵役にとられ、頭に頑丈なカブトをかぶる。これ
      が「兜」だ。
       悲しみの文字だと思う。
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10/23  将来はどうなるのか心配なのが、「臼」という字だ。三日前に書いた
      「捜」の字も含めて、この字の入った文字は次々と形を変えている。
       「稲」はもともと「稻」だった。
       「児」はもともと「兒」だった。
       何が起こっているかというと、「臼」が「旧」に取って代わられてい
      るのだ。画数が似ていてどちらも「キュウ」と発音するからなのだろう
      が、そういうことでいいのか。
       ボクは「稲」を書くとき、ノギ偏の次に「旧」の左の縦棒を書くとい
      う間違いをおかしていたが、「稲」と「旧」との間に関連がないからそ
      ういうことになるのだ。「臼」だったら「ああ、イネはそういう植物だ」
      と、直感できるではないか。
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10/22  強引な字について書いているが、今日は「育てる」という字だ。これ
      は「月」の上に何を乗せているとお思いか。実は「子」である。「育」
      をひっくり返して見ていただければ、そこに「子」の字があるのがおわ
      かりになれよう。
       だとしたら、子の下の「月」が、次の三つの「月」のうちのどれなの
      か、考えることも面白い。当てていただきたい。
       1.肉月と呼ばれる「月」……胸・腹・臀などの「月」
       2.空にかかるあの「月」……期・などの「月」
       3.舟月と呼ばれる「月」……朕などの「月」
       正解は「1」だ。子どもに肉を食べさせる、いや、肉を付けるイメー
      ジで覚えたい。
       よく「子育て」と言うが、文字のつくりからして、そんなの、当たり
      前のことなのだ。
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10/21  昨日「捜」の字について書いたが、この手のアウトローたちの中には、
      「牽引」の「牽」がある。これなど、「玄」の字が書いてあるところに
      後から「ワ」が横に貫いている。書き順がどうなっているのか、分から
      ない字の代表格だと思うが、ボクは今説明したような順で書いている。
      発音が「ケン」と「ゲン」とで似ているからだが、きちんと調べたわけ
      ではない。暇のある人は調べていただきたい。
         =玄+ワ+牛 (?)
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10/20  テレビで「ナントカ特捜部」という文字が画面に出ると、どきっとす
      る。「捜」の字に自信がないのだ。手偏に「申」「又」と書くだけなの
      だが、どうもいけない。下が突き出すのかどうかも定かでない。
       高校時代、ボクはこの字を旧字体から勉強したのだ。この字の右上は、
      断じて「申」などではない。それは、「臼」を縦に貫いた形だ。つまり
      二つの部品が交差してしまっているわけで、普段は経験しない現象だ。
      大抵の漢字は、部品同士がお互いに遠慮しあって、縦長になったり横長
      になったりしながら、お互いのオリジナリティを確保しあってできてい
      る。こんな風に、先に書かれた「臼」を、後から縦棒が貫いたりしたら、
      「臼」が怒るだろうし、だいたいそんなの失礼だ。
       旧字体のフォントが見つかったので載せようと思うが、みなさんのコ
      ンピュータできちんと表示されるだろうか。
        ←旧字体 ←新字体
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10/19  事件は昨日11時55分のニュースで発生した。

      「名古屋市南区の家電販売店で、パソコン
およそ43台が盗まれました」

       うわあ、やってしまったか。
       アナウンサーは平然と話していたが、言ってしまって胸のうちはどう
      だっただろう
。画面は東海地区でよく見かける家電量販店の映像に切り
      替わっていたが、聞いている方にはそのどきどきが伝わってくるようだ。
      やがて再びアナウンサーが顔を見せたが、「気持ち、切り替えなきゃ」
      という表情だった。
       彼女は、あとで番組製作関係の人からいろいろと言われたのだろうな
      あ。ボクなら「明日、およそ10時13分に打ち合わせね」とか言って
      いる。
       思っているだけなのに、自分がイヤになった。
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10/18  「いわゆる」と「あらゆる」は友達関係じゃないかと思うのだが、ど
      うなのか。語尾の「ゆる」が情けない点も共通しているが、文法の教科
      書には、どちらも連体詞として載せられている。確かに、この言葉は主
      語にも述語にもならない。その直後に体言が来なければ意味をなさない
      言葉である。単独で存在できない悲しみを、これらの言葉は分けあって
      生きているのだ。
       しかし、「いわゆる」が漢字変換すると「所謂」となるのに対して、
      「あらゆる」の方は漢字にならない。置いてけぼりを食らった形だ。長
      年の友情関係にひびが入らないか、心配である。
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10/17 「ドリンクバーの方、ご自由にお取りして下さい」

       こちらはファミリーレストランでのこと。丁寧な言葉遣いには違いな
      いが、敬語の使い方が惜しい。
      「お+ナニナニする」という言い方は、自らの行為をへりくだって表現
      する言い方だ。尊敬の気持ちをこめるときには、「お+ナニナニになる」
      や「お+ナニナニ下さい」を使うので、正しい言い方は、「ドリンクバー
      の方、ご自由におとり下さい」か「おとりになって下さい」である。
       しかし、「ドリンクバーの方」という言い方にもボクはなじめない。
      まるで、手がふさがっているので足で障子を開けるような言い方だ。ど
      ういうことかというと、本来踏むべき手続きを省略して「方」と言って
      済ますのが横着だということだ。
      「ドリンクバーはあちらにご準備してございます。どうぞご自由にご利
      用下さい。」
       こういう言い方を広げたいのだが、応援してくれる人はいないだろう
      か。そんなのより、「ナントカの方」と言う方が簡単だし、格好良く聞
      こえるものなあ。       
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10/16  昨日の続き。
       急ぐ気持ちを「いそがしい」と言うというのは飛躍した発想のように
      思うので、似た仕組みの言葉を考えて落ち着いてみたくなった。動詞が
      形容詞につながるというケースだ。
       まず思いついたのは、「望む」と「望ましい」の関係だ。あとに「ア
      +しい」をつけると形容詞になるのかもしれない。

      「望む」  +「ア+しい」→「望ましい」
      「いそぐ」 +「ア+しい」→「いそがしい」
      「疑う」  +「ア+しい」→「疑わしい」
      「思う」  +「ア+しい」→「思わしい」
      「悩む」  +「ア+しい」→「悩ましい」
      「喜ぶ」  +「ア+しい」→「喜ばしい」
      「うるおう」+「ア+しい」→「麗しい」
      「嘆く」  +「ア+しい」→「嘆かわしい」
      「嗅ぐ」  +「ア+しい」→「かぐわしい」
      
       後の方が少々あやしいが、なんとなく意味は通る。「ア+しい」をつ
      けると、「そういう性質の」という意味が付け加わる。
       この伝でいくと、「ふさわしい」には「ふす」という言葉が対応する
      はずだが、ボクの知ってるのは「伏す」ぐらいしかないから、大いにあ
      やしいと思う。
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10/15  昨日の続き。
       「せわしい」を変換すると、「忙しい」になる。どういうことだ。ボ
      クたちが日頃使っている「いそがしい」の立場がなくなるじゃないか。
       そんな思いが子どものころの書き間違いを引っ張り出してきた。それ
      は、「急がしい」というものだ。急いでいるから「急がしい」だ。自然
      なことじゃないか。しかし、これを「忙しい」と書くと知った日から、
      ただの間違いにされてしまった。
       ボクたちはどうしても、「この字を何と読むか」としか考えられない。
      漢字があって、読みがある、という考え方だ。しかし、漢字と読みの関
      係とはそんなものではないと思う。むしろ逆で、「この言葉にぴったり
      の漢字はどれだろう」と当てはめる気持ちが元になって、「訓」という
      ものが定まっていったのではないだろうか。それはまるでパズルのよう
      な作業だったに違いない。
       いそぐ気持ちを「いそがしい」と言った。そして、その気分に合う漢
      字が「忙」だったと思うのだ。また、その気分を「せわしい」と表現す
      る時代がきっとあったのだ。言葉は時代を経て積み重なる。それは地層
      のようなものだと思う。
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10/14  最近気になるのは、「せわしない」という言い方。「気ぜわしい」と
      いう言葉からもわかるように、「せわしい」という形もある。いったい、
      「せわしい」なのか、「せわしない」なのか、どちらが正しいのか。
       辞書を引くと、これが両方載っていた。しかし、書き方からして「せ
      わしい」が本家のようだ。

      せわし・い【▽忙しい】(形)[文]シク せは・し
       (1)用事が多くて気持ちが落ち着かない。いそがしくてゆったりした
         気分になれない。せわしない。
       (2)動作などがせかせかしていて、見る者聞く者を落ち着かせない。
         せわしない。

      せわしな・い【▽忙しない】(形)[文]ク せはしな・し
       〔「せわしい」の語幹に形容詞をつくる接尾語「ない」の付いた形〕
       (1)「せわしい(1)」に同じ。
       (2)「せわしい(2)」に同じ。 (「大辞林」から)

       問題は、「せわしい」で十分なのに「せわしない」という形を生み出
      した人の心にある。誰が、どんな気持ちで作り出したのだろうか。
       これは想像だが、この言葉を最初に使った人は、あんまり忙しくて、
      とても「せわしい」では片が付かない思いになったんだろう。そこで、
      自然に強調して「せわしない」と発語してしまった、というところでは
      ないだろうか。
       文語の世界では、「し+なし」は否定の強調を表す。「な」の字を入
      れることで偶然できあがる強調表現。真相はともかく、そんなことを想
      像するのも楽しい。
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10/13  「日本シリーズ」って、何だろう。おまけにアメリカでは「ワールド
      シリーズ」という。「シリーズ」が変なのだ。ゴルフでは決勝戦のこと
      を「プレーオフ」と呼ぶのだが、「シリーズ」の方は何だか分からない。
      「日本」までは分かる。重ねて言うが、「シリーズ」がいけないのだ。
       何かの略語だろうか。だとしたら何が抜けているのか。

      「野球日本一決定戦シリーズ」
      「応援日本一決定シリーズ」
      「日本一決定にかこつけた無駄遣いシリーズ」

       関係なさそうなところの方が魅力的だ。
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10/12  先日、テレビを見て気づいたのだが、選挙で当選した人が、「私を選
      んでいただきまして、ありがとうございます」と言っていた。変な日本
      語だと直感し、何がおかしいのかを考えてみた。

       この人は、感謝の気持ちが強すぎてこうなってしまったのだ。感謝の
      気持ちを伝えるには相手の行動を持ち出すものだが、「選んでいただい
      た」のは、自分の側であって、相手ではない。相手の行動は「選んで下
      さった」と表現すべきだ。この人は主語を勘違いしていたのだ。
       すなわち、正しい表現は、「私を選んで下さいまして、ありがとうご
      ざいます」となる。この人は、
「私を選んで」までは良かったのだが、
      感謝の気持ちが高く、その続きに「いただきまして」と謙譲表現に走っ
      て、そのまま「ありがとう」につないでしまったのだ。
       ボクたちの日常を振り返ると、こんなことはいくらでもある。上下関
      係のない、平等な社会を目指しながら、しかし「礼儀」という視点は忘
      れたくない。
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10/11  一年生の子が二人、廊下でひとしきり笑った後、その笑いの後味を味
      わいつつ、「ああ、残り笑いが……」と言っていた。面白い表現だ。そ
      んな言い方はしたことがないが、「残り香」「残り火」といった表現とと
      もに、一度は使ってみたい。
       世のおばちゃんたちはこんな風に笑った後、「あーあ」と言って笑い
      をおしまいにする術を心得ているが、この子たちのように笑いに浸るの
      もなかなか良いことだと思う。
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10/10 「自然派思考のあなたにお勧めです。」

       喫茶店のレジ近くにこんな貼り紙があって、その店で使っているジャ
      ムが売られていた。会計を済ませつつ、「志向ですね」と指摘すると、
      恥ずかしそうに「申し訳ございません、ありがとうございました」と謝
      られたり感謝されたりでこちらが恥ずかしかった。
       店を出てから、「あ、『指向』と『志向』の違いは何だったっけ」と
      さらに別のことを思いついた。人のことを言うということは、自分のこ
      とを考えることにもなるんだと、そういうことを学んだ。

      しこう  【志向】 (名)スル
       (1)意識をある目的へ向けること。こころざすこと。意向。指向
        「民主国家の建設を―する」
       (2)〔哲〕〔(ドイツ) Intention〕意識がいつもある対象に向かって
        いること。

      しこう  【指向】 (名)スル
       (1)ある目的を目指して向かうこと。志向
        「医を―する」
       (2)ある特定の方向を指定すること。ある方向に向けること。
        「探知機が発信源を―する」      (「大辞林」から)

       つまり、どちらを使っても大きな違いはないということが分かった。 
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10/9  「毛染め剤・脱色剤などのご使用は、他のお客様の迷惑となりますので、
      ご使用にならないよう、ご協力をお願いいたします」
       銭湯で湯舟につかりながら、壁に貼られたこんな表示を見た。
       当たり前だろう……。
       こういう注意表示がないと洗い場で毛を染める不心得者が出てくると
      でも言うのかと、そんな店主に腹が立ったが、コンビニエンス・ストア
      の前にたむろして飲んだり食べたり騒いだりしている若者を見ていると、
      やりかねないことだという気がしてくる。さすがに一人で飲み食いして
      いるのは見たことがないが、たいていは3人以上の集団でやっているの
      で、銭湯でだって、3人以上いたら、わいわい言いながら毛を染めるの
      かも知れない。しかし、こんな表示なんてなくったって、自分で注意で
      きる人ばかりの社会になってほしいと思う。
       いや、そういえば、昔、銭湯では、隣のおじいさんにシャンプーがか
      かったりすると、その場で注意してもらえた覚えがある。だから、若い
      者は年長者には気をつかって風呂に入っていたものだ。銭湯では、礼儀
      も学ばせてもらえたのだ。
       自分はどうだろうかと思う。行儀の悪い人に、自分はきちんとものを
      言っているだろうか。言えない人が増えたので、銭湯は責任をとらされ
      る形でこんな無粋な表示をすることになったのだと思うと、やたら気の
      毒になった。
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10/8   ナントカ系という言葉が定着している。昔は「文系」「理系」ぐらい
      しかなかったのに、ずいぶん裾野が広がった。
       ・柑橘系
       ・格闘系
       ・いやし系
       ・お笑い系
       ・バラエティ系
       ・筋肉系
       すべての責任を押しつけるつもりはないが、こうして一覧にすると、
      この言葉の仕掛け人がテレビ業界であることが丸わかりだ。はやり始め
      は「体育会系」だったように思う。もう20年になろうかという、流行表
      現の古株だ。
       ボクは自分では文科系だと思っているのだが、なかなかそうは言って
      もらえない。生徒も「コンピュータの先生だと思っていた」とか、平気
      な顔で言う。国語人らしい落ち着きを持ちたいと思う。とりあえず辞書
      でも持ち歩いてみようか。
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10/7   坂本龍馬は「日本を今一度せんたくいたしもうし候」とか書いている
      が、「せんたく」とはどういうことか。
       ・選択……日本のことをあきらめかけていたが、やっぱり大事にし
            たいと思う。
       ・洗濯……日本は汚くて救いがたい。もう一度、根底からきれいに
            して、居心地の良い国にしたいと思う。
       どちらにしても、このころの日本は良くなかったことが分かる。だめ
      な国だったのを救おうとしたり、立て直そうとしたりする志は貴いもの
      だと思う。
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10/6   愛車の走行距離が88,888kmを越えた。「越えた」というのは、その瞬
      間を見逃したということにほかならない。そろそろそだなあと思って運
      転しているのだが、気がつくと10kmあまり乗り越している。そういう瞬
      間を写真に収めている人がいるようだが、ボクには縁遠い世界だ。
       そういうわけで、次は99,999kmまで待たねばならない。ボクの車はこ
      の年にして初めて買った新車なので、愛着も深い。
       さて、車は古くなると「中古車」と呼ばれる。一方では「ビンテージ」
      と呼ばれて骨董品扱いをされるものもある。「中古車」という表現は、
      なんだか「傷んだ、使い古された」という印象のある言葉だ。使い古さ
      れたボクの車は、ビンテージではない。
       ジーンズを大切にする人は、おいそれとは洗わないらしい。洗ってし
      まうとせっかくの汚れ具合や傷み具合が台無しになるらしい。何十万も
      するジーンズは、洗ってあるのかないのか、気になるところだ。しかし、
      車はきれいにしていないと、大切にしているとは言われない。
       金をかけるのならジーンズだと思った次第だ。
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10/5   カーキ色って、どんな色だ。

      カーキいろ 【―色】
       〔カーキ((ヒンデイー) khāk)は「土ぼこり」の意〕
       暗い黄味の赤。枯草色。カーキー。「―の軍服」    (大辞林)
 
       発音記号がものすごいが、これでカーキと読むのだろう。色の方はこ
      の通りで、暗い黄味の赤だそうだ。しかし、カーキ色のカバンとして売
      られているものは、どう見ても「暗い緑」だったりする。そういうもの
      もカーキの仲間に入ってしまっているのだろうか。だとしたら、とんで
      もないことだ。カーキ色の嫌いな人に「カーキのカバンが安かったよ」
      と言っても購買意欲は湧かない。それが暗緑色のカバンだと知ったとた
      んに「惜しかった」ということになりかねないではないか。
       実は自分のことだった。
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10/4   漢字遊びの伝統は長い。室町時代に当時のなぞなぞを集めた『後奈良
      院御撰何曽』では、次のような漢字遊びが収められている。
 
      ◎梅の木を水にたてかへよ       → 答え「海」
 
       「梅」の「木偏」を「水」にしたら、そりゃ「海」だ。
 
      ◎道風がみちのく紙に山といふ字をかく → 答え「嵐」
 
       これはものすごくややこしい。「小野道風」という書家がいたことを
      知らねば面白みも半減だ。その道風が「みちのく紙」つまり陸奥で作ら
      れた紙に「山」と書いたということだ。しかし、「みちのく」は「道がの
      く」わけだから、「道風」から「道」が立ちのかねばならない。残るは
      「風」だ。その「風」に「山」を書いたら「嵐」というわけだ。
       なぞなぞだが、こんなややこしいもの、当時の子どもたちが楽しんだ
      のだろうか。大人が文字をいじって面白がっていた、というのが本当の
      ところではなかったかと思うがいかがか。
 
      ◎紅の糸くさりて虫と成る       → 答え「虹」
 
       なにも腐らせなくてもいいじゃないかと思う。
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10/3   外来語は面倒なものだが、「ファ」行で書くべきを「ハ」行として書
      くものがあるようだ。
 
          現在の表記  原語       発音のしかた
          ウエハース ← wafers 〔英〕(ウェイファーズ)
           プレハブ ← prefab 〔英〕(プレファブ)
           コーヒー ← koffie 〔蘭〕(コフィー)
             ヒレ ← filet  〔仏〕(フィレ)
            ヘット ← vet   〔蘭〕(フェット)
           イヤホン ← earphone〔英〕(イヤフォン)
        プラットホーム ← platform〔英〕(プラットフォーム)
           ヒューズ ← fuse  〔英〕(フューズ)
 
       こういう表記は正確ではない、と書こうとしたのだが、考えてみれば、
      現在の書き方の方が、文字は少なくて済むし、それに何より、発音の度
      につばが飛ばなくて良い。ファミリーレストランで「ご注文を繰り返さ
      せていただきます。フィレカツセットがお一つ、ホットコフィーがお一
      つ、アイスコフィーがお一つ……」なんてやられたら、つばが一杯飛ん
      で気分が悪いかもしれない。
       しかし、こういうずれがあるのは主として明治期に輸入された言葉だ
      けで、それ以後のものは、ちゃんと「ファ」行だ。「ファミリー」だし、
      「フィレ・オ・フィッシュ」だし、「チーズ・フォンデュ」だ。食べた
      ことないけど。

       戦争中、フィリピンのことを「比島」と書いたりしていたようだが、
      ひょっとして、発音も「ヒリピン」だったのだろうか。お年寄りに聞い
      てみたい。
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10/2   昨日の歌の直前に、こんな歌が載せられている。

       ■おなじもじなき歌                  0955
                            もののべのよしな 
       よのうきめみえぬ山ぢへいらんには おもふ人こそほだしなりけれ
 
       「ほだし」というのは、「人情にひかされて物事を行う妨げとなるも
      の。自由を束縛するもの(大辞林)」という意味だ。この歌を現代語にし
      てみよう。
 
       世の中の辛さ悲しさのない山の中に入って僧として暮らそうとするけ
      れど、大切に思う人がいるのが足かせだ
 
       作者は悩んでいたのだろうか。大事な人がいて、出家ができないとい
      う。思い切って世を捨て、きれいな心になりたいのに、家族なのか恋人
      なのか、その人がいるために出家できないのだ。汚れすさんだ人の世か
      ら抜け出したくてたまらないのに……。
       そんなに苦しんでいるのに「おなじもじなき歌」なんて人に受けるよ
      うに工夫しようとしているから、だからあなたは出家できないんだ。
       作者が1200年も前に亡くなっていることを良いことに、勝手なことを
      言ってみた。
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10/1   古今和歌集を見ていた。
 
       ■山の法しのもとへつかはしける            0956 
                            凡河内みつね 
       世をすてて山に入るひと やまにても猶うき時はいづちゆくらん 

       ■物思ひける時、いときなきこを見てよめる       0957
                            凡河内みつね 
       今更になにおひいづらん 竹のこのうきふししげきよとはしらずや 
 
       作者
凡河内躬恒は教科書にも載る有名人だが、何かあったのだろうか。
      俗世を捨てて山に入った僧に「出家してもなおつらいことがあったら、
      どうするんだ」とわざわざ人を遣って言ったり、小さい子どもに向かっ
      て「お前はどうして生まれてきたんだ。生まれてきてもつらいだけだぞ」
      とか、そんなことばかり言っている。今こんな人がいたら、性格悪いと
      言われそうだ。番号を見れば分かるように、古今和歌集に並んで掲載さ
      れているのも面白い。
       当時は、知恵を使ったおもしろみのある歌が尊重されたようなので、
      人の考えつかないことを言った
凡河内躬恒は、時流に乗り、これを先取
      りした存在だったに違いない。
       でも、これはないだろうと思う。
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     過去文 2003年   2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
         2004年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
         2005年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月